9月に入り、2017年度も後半を迎えようとしています。
以前のブログ記事でも紹介したように、腸内細菌共生機構学講座では、二週間に一度の頻度で文献紹介ゼミを行っています。
一人あたり一年間で二回担当することになっているのですが、この文献紹介ゼミも後半戦がスタートしました。
9月14日の文献紹介ゼミで、研究員の杉山友太さんが「
Variation in Microbiome LPS Immunogenicity Contributes to Autoimmunity in Humans.(腸内細菌叢のリポ多糖は様々な強さの免疫原性を持ち、このリポ多糖の組成がヒトの自己免疫異常に寄与する)」を紹介しました。
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プレゼンテーション中の杉山研究員 |
この文献は「衛生仮説」と腸内細菌叢に注目したものです。
衛生仮説では、幼少期に衛生状態があまりに良い環境で過ごすと、免疫系の正常な発達が阻まれ、自己免疫疾患になりやすくなると言われています。
Espoo (フィンランド)、Tartu (エストニア) および Petrozavodsk (ロシア)の3つの町では、住民の遺伝的背景がよく似ているにも関わらず、自己免疫疾患の発症率Petrozavodsk (ロシア)と比較して、Espoo (フィンランド)・Tartu (エストニア)では非常に高い(人口比で数倍以上)ことが知られています。
この文献では、この違いが3つの町の乳児の腸内細菌叢の違いによるものではないかと仮定して研究を進めました。
この結果、Espoo (フィンランド)・Tartu (エストニア)では、Petrozavodsk (ロシア)と比較して、
Bacteroides属細菌が非常に多く検出されることがわかりました。また、Petrozavodsk (ロシア)では
Bifidobacterium属細菌が、Espoo (フィンランド)、・Tartu (エストニア)と比較してやや多いという結果が出ていました。
著者らは、衛生状態のよいEspoo (フィンランド)、Tartu (エストニア)の乳児糞便から多く検出される
Bacteroides属細菌から出て来るリポ多糖は、免疫を刺激する効果が低いために、免疫を刺激する効果の高い大腸菌の仲間(大人の腸内細菌叢には少ないですが、乳児の腸内細菌叢にはかなり多いことが知られています。)のリポ多糖による宿主への免疫刺激を弱めてしまう結果、宿主の免疫が未成熟になってしまい、自己免疫疾患が起こりやすくなると主張しています。Petrozavodsk (ロシア)の乳児の糞便では、この
Bacteroides属細菌が少なく、大腸菌の仲間のリポ多糖による免疫刺激がよりダイレクトに乳児に伝わることによって免疫の成熟がより促進され、自己免疫疾患が起こりにくくなるということのようです。
この文献の中で免疫刺激を弱めるリポ多糖を出す
Bacteroides属細菌の代表として扱われていた
Bacteroides doreiですが、なんと、栗原先生の共同研究者の松本先生のお知り合いの
マサピヨさんから世界で初めて単離された菌種とのことで、皆さん驚いていました。
【平野】