2015年12月15日火曜日

腸内細菌を生やすためのひき肉入り培地

 ヒトの腸内には100種類以上の腸内細菌が存在し、ヒトの健康に影響を与えています。この影響について詳しく知るために、私はヒトの腸内で優勢な腸内細菌について研究を行っています。この優勢な腸内細菌のうち上位56種については学術論文で既に報告されています(Nature, 464:59-65 (2010))。私たち研究室では、この56種のうち国内外の菌株保存・分譲機関から入手可能な42種の腸内細菌を購入しました。

 多くの腸内細菌はフリーズドライによって粉末化された「フリーズドライ菌体」の状態で菌株保存・分譲機関から送られてきます。しかし、フリーズドライ菌体のままでは実験に使うことができません。そこで培養を行うのですが、腸内細菌は培養が難しいものが多く、実験でよく使う作製が簡単な培地では培養できない場合があります。腸内細菌は1種類につき約8,000円~40,000円もする高価なものなので、「培養できなかった」ということで、無駄にするわけにはいきません。そこで私は最初に、細菌の保存・分譲機関が腸内細菌ごとに推奨している培地(推奨培地)を用いて腸内細菌の培養を確実に行おうと考え、42種の腸内細菌を培養するために必要な14種類の推奨培地を作製しました。推奨培地はどれも作製法が複雑で、1つの培地を作製するのに1~2日かけなければなりませんでした。

 推奨培地の作製で最も驚いた点は6つの推奨培地に“脂肪を含まない生の牛ひき肉を煮たもの”を入れなければならなかったことです。この肉入りの推奨培地を作製する度に、スーパーで生の和牛ひき肉からわざわざ脂肪を取り除いてもらったものを購入しなくてはなりませんでした。



推奨培地用に購入した脂肪を取り除いた和牛ひき肉。
100 g当たり423円もする高級な肉です。

この真っ赤な牛ひき肉を鍋で煮た後に、


実験というより、料理を作っているみたいです。



様々な工程を経て推奨培地を完成させました。


完成した肉入りの推奨培地の一つ。培地に入っている粒が牛ひき肉です。


 これらの推奨培地に腸内細菌のフリーズドライ菌体を植えたところ、購入した42種の腸内細菌のうち41種の腸内細菌の培養に成功しました。目的の腸内細菌を培養できて安心しましたが、もっと作製が簡単な培地を推奨してほしかったと思いました。

1 件のコメント: